90年代にデヴューした当時から
このサイレントポエッツがずっと好きで
長年アルバムもちゃんと聞いてきたし、
何でもよく知っているつもりだったのに
昨年六月渋谷で行われた25周年ライブのこと、
このライブドキュメンタリーのことさえも
まるで他人事のように忘れて過ごしてきたことに、
少しばかり、後悔の念が芽生えていた矢先、
なんとか、劇場公開期間には間に合った。
晴れ渡る空、流るる雲、時々雨。
それまでのモヤモヤはどこかへ吹きれた。
何だろうか、この爽やかな感慨は。
あたかも旧友に再会した気分とでも言うのか。
そういえば「ヴァンサンカン」っていう雑誌があったけな、
25年か、ひとえに四分の1世紀だな。
低迷していたカープが
黄金期を迎えるのに費やした年月と同等ぐらいか、
などと、どうでもいいことをうだうだ考えていたのは
映画が始まる前までで、
そのステージの記憶/記録が再生されるや否や、
時空を超えてドップリ、その世界に舞い戻る自分がいた。
にしても、25年の重みはそれなりにズシリと重い。
ダブのベースのような重さだ。
決して軽いとはいえないが、
かといって、手に負えないほどの
陰鬱な重さなどとは無縁で
とにかくどこまでも美しいのだ。
ひたすら美しいサウンドスケープのなかに
解き放たれ雄大に大空を舞う鳥にでもなった気分がした。
同時に映し出される映像とリンクしながら
サイレントポエッツの音は、
豊かな空間に散りばめられた音の宝石を
ひたすら無になって啄む鳥たちの為にあるような
そんな孤高の響きがする。
入れ代わり立ち代わり、
ステージを彩るゲストミュージシャンを横目に
一人クールに黙々とトラックを操作しながら、
その歓びを噛みしめるそんな下田のクールな姿が印象的だ。
新作『dawn』が12年ぶりということも驚きなのだが
その分、様々な参加ミュージシャン達を迎えて
それまでの沈黙が嘘のように
瑞々しく奥行きのあるサウンドを十二分に展開している。
時の流れ、進化や変化ももちろん感じるけれど
根本的にサイレントポエッツの姿勢は変わらない。
今回初めてというか
地明かりのない薄暗いステージの上で
総勢11人の大所帯ダブバンドとしてみせた演奏は
過去の曲に新たな解釈と新鮮な命を吹き込んでいるが
映画の冒頭でイギリスのDJドン・レッツが
興奮しながらその思いを語っていたように、
空間の開放的、圧倒的なオリジナリティがあり、
映像から見られるように、映画的でもあり
音に宿る物語性、つまりはその叙情が時に胸を締め付ける。
それは生ではない映像からでも、何ら変わらなく伝わってくる。
その幾重にも重なった音と音の狭間に
素直に身を浴しながら
まるで瞑想をするかのように聞き入ってしまう音霊と
かけがえのない時空の交信ができた。
世間には順風満帆だと思われたバンド活動も
本人によればそれなりに紆余曲折があったというし
その沈黙でさえも、
サイレントポエッツらしい歩調であるかのように思える。
ゆえに、この25年の活動を祝福をするために、
少しでもその音、存在に惹かれるものなら
こうした劇場空間に駆けつけて
ゆっくりと身を委ねるべきなのだ。
サイレントポエッツが特別な存在で
下田法晴というミュージシャンが
いかに他の音楽家と違っているかがわかるはずだ。
Memory,Life,Moment...
下田法晴のトラックには
映像を喚起させるタイトルが決まって並んでいる。
『To Come...』に参加していた
テリー・ホールやヴァージニア・アストレイといった人選も
まさに自分好みだったが、
新作『dawn』では、
年齢、性別、国境を超えた
多彩な顔ぶれがフィーチャーされ、新たな発見も多い
5lackとNIPPSといったラッパーたちを始め
イスラエルの女性MCMiss Redや
ニュージーランドのレイラ・アドゥ、
ポール・クックの娘ホリー・クックに、
オーガスタス・パブロの息子であるオーディス・パブロ、
といったレゲエシンガー、
あるいはD.A.N.で活躍する櫻木大悟などに混じり、
何と言っても下田が影響を受けたという、
ミュートビートこだま和文の参加は感動的だ。
このダブとトランペット。
これほどまでに相性のいい組み合わせはまたとない。
ライブステージでもその空間に溶け合い
改めてその存在感の大きさには
こちらも思わず胸が熱くなった。
サイレントポエッツははじめから、
音響とビジュアルを同時に平行して捉えてきた
その意味では意識の高いバンドだった。
トイズファクトリー傘下の「bellissima!」レーベルでの
アートディレクションなどを見ても、
このアーティストがいかにビジュアルを多面的に捉え、
イメージの喚起にこだわってきたかが窺い知れよう。
そんな下田法晴の感性を支持してきたものとして、
この貴重なライブ映像にはとりわけ感慨深いものがある。
サイレントポエッツ=下田法晴となった今、
新たに踏み出した航海に
さらなる期待を込めてエールを送っておこう。
SILENT POETS - SAVE THE DAY Trailer -60s ver.-