日常ステッキ(転んだ先の知恵)

限りなく偏愛に満ちた音楽、映画、文学、アート、その他日常に感じる素敵な事柄、あるいは事象に関する覚え書

どんな変顔も太刀打ちできないカオスな画家を讃えて

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Giuseppe Arcimboldo | Allegories of the Elements, 1576

動物社会での擬態というものを考えれば
日頃人間が洋服やメイクでカムフラージュしたり、
色々手を替え品を替え、武装する心理にもなんとなく
理解のほどを示したくなる。

子供の頃、よく見かけていた蝶で
自分で勝手に目玉蝶と呼んでいた
ジャノメ蝶という種類の蝶がいるのだが
眼状紋、つまりは羽根に目玉のような文様があって
それは自然界の知恵で、外敵から身を守るために
進化の過程で考え出された擬態であり、
なるほど面白いものだなと思った。

自然界に目を向ければ
それこそ、木の葉に見せたコノハチョウや
枝に似せたナナフシであるとか擬態には
枚挙にいとまがないほどである。

さて、なにが書きたいのかといえば
アンチンボルドという画家の残しただまし絵、
というか寄せ絵というのか
そのことを書こうと思っているのだが
だまし絵=トロンプルイユというものが
昔から人々の関心であったこと
(日本でも江戸期の歌川国吉あたりが第一人者か)
またそれが当時の社会でも
立派にちゃんと受け入れられていたことに、
なんだか驚きと同時に嬉しさが込み上げてくる。
というのも、昔から、このだまし絵というものに
すこぶる興味を持っていたからだ。

壁のシミだとか木目、あるいは雲を眺めていて
何かに見えることはしばしばあるし
つまるところ、幻視と呼ばれるものだが
画家エルンストはこの幻視というものにこだわった
シュルレアリスティックな絵画やコラージュを
数多く残している。

イタリアミラノ出身のジュゼッペ・アンチンボルドという画家は
元は言えば父親から教えを受けステンドグラス職人からスタートし、
イタリアのマニエリスムを代表する宮廷画家となったひとである。
家柄もよく、学識もあり、
当時ミラノの画家の間では
レオナルド・ダ・ヴィンチの手法、技法が礎になっており、
このアンチンボルドもまた当然、ダ・ヴィンチの技法を習得し
その精緻なタッチにも見事反映されており
単なる奇想天外な画家というだけの
視覚芸術を残したわけでないのだ。

とは言え、魚や鳥、果物や植物を構成して
肖像画を描いてしまうその想像力に舌を巻かざるを得ないのだ。
なんと刺激的で、魅惑的な絵画なのだろう。
ダリを始め、エルンストやマグリット
あるいはチェコシュワンクマイエルなど、
そのエッセンスは当然のごとく、
20世紀の美術に多大な影響を与えており
シュルレアリスムの父とさえ呼ばれるところだが
そのグロテクスなアンチンボルドの寄せ絵には、
どこか静謐さと品性が絶えず宿っており
少なからず、その人となりを伝えているように思われる。

とりわけ名高いのは
神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世に捧げられた
寓意的肖像画シリーズである。
小児期、青年期、熟年期、老年期をそれぞれ春夏秋冬で表現した「四季」
大気、火、大地、水からなる自然現象の擬人化としての「四元素」である。
共に、ハプスブルグ家の宮廷およびその統治への称揚が謳われ
それを贈り物として受け取った皇帝自身
たいそう気に召したということである。
アンチンボルドがシュルレアリスムの系譜の礎にあり
ただ単に異端の画家に治らないのは
ひたすら己の美意識を追求した孤高の画家とは違って
そうした親和性を持った画家であったことである。

つまりは、アンチンボルドと言う人は
時代や空気を読みとく目に長けており
極めて理知的でバランスの取れた人物であったようだ。
絶えず皇帝の庇護を讃えながら、
マクシミリアン2世、その息子ルドルフ2世から
絶大な信頼と尊敬の念を受け、
ハプスブルグ家の宮廷内のレオナルド・ダ・ヴィンチと称されるほどの
宮廷内の出し物のプロデュース、
今で言うところのアートディレクターのようなポジションまで任されていたことからも
そのあたりの片鱗がうかがい知れると言うものだ。

最後にアンチンボルドを讃える言葉として
葬儀で著名なチェーザレ・べゾッツォと言う詩人が贈った碑文を載せておこう。

画家アンチンボルドに捧ぐ
とみに傑出した人物、
とみに才気あふれたバラティン伯、
皇帝フェルティナンド、マクシミリアン2世、
ルドルフ2世より
つねに高く評価されるこの偉大な人物の親友チェーザレ・べゾッツォ
『アンチンボルド アートコレクション』より

 

アルチンボルド アートコレクション

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