日常ステッキ(転んだ先の知恵)

限りなく偏愛に満ちた音楽、映画、文学、アート、その他日常に感じる素敵な事柄、あるいは事象に関する覚え書

映画版“すてきな三人組”をダウン・バイ・ローと呼ぶ

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『Down by Law』 1986 Jim Jarmusch

ストレンジャー・ザン・パラダイス』(長編デビューは一応『パーマネントバケーション』ということになっている)で初めてその存在を知って以来、
長年に渡って支持してきたアメリカの映画作家ジム・ジャームッシュ
2016年公開の『パターソン』で
その健在ぶりを示してくれたのは記憶に新しいところだが
2020年には『The Dead Don't Die』というゾンビ映画が控えていて、
ますます目が離せなくなってき始めている。

そんなジャームッシュフィルモグラフィーのなかで、
一番好きな作品はと聞かれたら
迷わず1986年の『ダウン・バイ・ロー』と答えるだろう。
ロビー・ミューラーによる美しいモノクロームの映像とトム・ウエイツの歌、
ジョン・ルーリーサウンドトラックが華をそえ
ジャームーシュならではの感性が冴え渡り
男たちの友情を描いたオフビートムービーが出来上がっている。

上記の音楽を担当したジョン・ルーリートム・ウェイツ
非職業俳優として、絶妙のコンビネーションで、
このジャームッシュワールドの住人を演じきっている。
そこへ達者なイタリアン俳優、ロベルト・ベニー二が加わって、
この三すくみの醸す雰囲気がなんといっても最高なコンビネーションを形成している。
言わずもがなの素敵な三人組というわけだ。

とりわけ刑務所の中のシーンの掛け合いこそ
ジャームッシュのジャーッムッシュたる所以であり
三人の掛け合いに終始ニヤニヤしてしまう。
ジョン・ルーリー演じるジャックが
トム・ウエイツ演じるザックと丁々発止を繰り広げ
まるで掛け合いの漫才のように言葉を交わすシーンは
この映画のハイライトでもある。

そこへ加わったロベルト・ベニーニ演じるロブの
このユーモアのセンスにも脱帽だ。
有名なシーンは、何と言ってもそのロブが主導で
I Scream, You Scream, We All Scream for Ice Cream
を刑務所内で合唱させるシーンだ。

そうして息があったところで見事脱獄成功。
(そんな簡単でいいの? ということはさておき)
脱獄で思い出したのだが、
ジョン・ルーリーを見ていたら
同じ脱獄ものであるジャック・ベッケルの『穴』を思い起こさせる。
その中に出ていた一人の俳優フィリップ・ルロワなんかに、
なんとなく雰囲気が似ているなと記憶を紐解いていた。
つまりは、脱獄囚顔をしているというわけだ。

何れにせよ、この刑務所での三人の呼吸が
脱走を可能にしただけではなく、
本作品タイトルにも反映されている。
「気が合う仲間」を指すスラングとして使われる
この『ダウン・バイ・ロー』という語が
そのままタイトルになったというわけである。

それにしても、ジャームッシュ
非職業的俳優をしばし起用するのがお好きなようである。
ストレンジャー・ザン・パラダイス』からの常連ジョン・ルーリーはさておき、
ここではトム・ウエイツが気位の高いDJ役を演じたかと思えば
続く『ミステリー・トレイン』ではR&B界の変わり種
スクリーミン・J_・ホーキンスを起用し、
一躍注目を浴びた。
このどこかとぼけた空気感を生成するために
そうした演技にこなれていない俳優たちを
積極的なまでに使っているようにさえ思える。

その意味では、ジャームッシュの映画は
どこか、永遠に完成されることを阻むような、
そんな未完の誘惑に満ちている気がしてくる。
そこに永遠のみずみずしさが横たわっっているように思えるのだ。

ところで、このジャームッシュもまた
小津好きで知られている作家の一人だが
ジャームッシュは移動撮影を好む。
とりわけこの『ダウン・バイ・ロー』では多用され
ロビー・ミューラーの、まさに“快楽の漸進的横滑り”である
この流れるような移動撮影が実に素晴らしく、
それだけでもうっとりする瞬間が続くのだが、
小津はこの移動撮影そのものを
トーキー以降ほぼ使わない監督として顕著で
例のあの有名なローアングル固定に終始して
映画を撮り続けた人である。
そのスタイルがあまりに両極端なので
面白いものだなあと思った次第である。