日常ステッキ(転んだ先の知恵)

限りなく偏愛に満ちた音楽、映画、文学、アート、その他日常に感じる素敵な事柄、あるいは事象に関する覚え書

合言葉はダバダバダ、ダバダバダ。サラヴァ、53年の年月よ

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「Un Homme Et Une Femme」1966 Claude Lelouch

そして全ては限りない宇宙
回る星の上の出来事
Pierre Barouh「Boule qui roule」より

秋になると俄然観直したくなる映画というのが
急に増えるのでありまして、
いやあ、あれもこれもと全く気だけが先走って困るぐらいにあるのですが、
今日は一つ、ピエール・バルー&ニコラ・クロワジーユのあの歌
ダバダバダ、ダバダバダで有名な
あの大人の恋愛映画の決定版
クロード・ルルーシュの映画『男と女』について
書いてみようと思います。

言わずもがなのルルーシュ出世作
カンヌではグランプリ、日本でも大ヒットした名作です。
ピエール・バルーが映画製作に携わるきっかけにもなり
その名を知らしめた記念すべき映画と言えましょう。
バルーさんがこの映画にかけた情熱は
ルルーシュに負けないものでした。
この映画で使われたバルーさんの曲『サンバ・サラヴァ』はそのまま
無名のアーティストたちを支援しながら
今尚独立レーベルの礎となる精神を有する
サラヴァレーベルの設立へと連なっていくのです。

なんでも来年早々には53年後の続編として
『男と女 人生最良の日々』が公開されると言うから
なんだか今からとてもワクワクした気持ちになっているのです。
ただ、一つ、言い訳がましく言っておくのは
今でこそ、いい映画だなどと
軽々しく呟いてしまっているわけですが、
正直、昔はどこか軟弱な感じを持っていて
必ずしも手放しで好きな映画、というくくりに
ずっと入れてこなかった作品でもあるのです。

確かにそのムードに酔いしれ
フランス的な恋のアヴァンチュールにときめきはしたものの、
映画という点では、称賛するまでには至らない作品でした。

ミュージシャンとしてピエール・バルー
当時から大好きだったけど
ルルーシュの屈折したロマンティシズムには
今ひとつ気乗りできなかったのを覚えています。
映像として、物語として美しすぎたというか。
つまりは雰囲気はあるけれど、
心にはさほど引っかかってこなかった映画だったのです。
今でもルルーシュはこの『男と女』以外
他の作品を見ていないので監督の資質までを語るには
少々無理があり、また語ろうとも思わないのです。

でも、今見ると『男と女』
それなりにグッと来るものがあります。
それは時間と言う名のマジックかもしれません。
大好きだったバルーさんは、ちょっと顔を出すぐらいで
死を持って早々にスクリーンからいなくなってしまうのだけれど、
主役はジャン=ルイ・トランティニャンとアヌク・エーメで
妻が自殺してしまった男と
事故で夫を亡くした女のやもめ同士が出会って恋をする、
というのが骨子で
いかにもフランス的な叙情的ロマンに
ようやく素直に身を任せて鑑賞できる年頃になった
ということでしょうか。

ところで、これはジャコメッティの記事を書いた時に触れたのですが
劇中で「ジャコメッティは火事になったとき、
レンブラントの絵よりも猫をまず助けるといったんだよ」
というエピソードが挿入され
二人が共感するシーンに当時痛く感動したというようなことがあって
直接ストーリーとは関係のないシーンといえ
今尚鮮明に覚えているのです。

実を言うと1986年には、
再び20年後のジャン=ルイ・トランティニャン、 アヌーク・エーメの
男と女 II 』が撮られているのですが
自分は未見、当時興味すら持っていなかったのです。
そして、今回はそのまた32年後、
余生も残りわずかとなった二人が
再び再会しての『男と女 人生最良の日々』。

すでにあれから50年以上の年月が流れ、
そこに同じ役柄で撮りえたことだけでも感慨深いものですが、
老いてなお美しいアヌーク・エーメと
トランティニャンがそこに居合わせるだけで言葉になりません。
実を言うと初めて見た当時のトランティニャンに関しては
かっこいい俳優さんではあったけれど
さほど好きになれずにいたもの確かなのです。
当時はまだその個性、俳優としての良さが
ピンとこないまま、ぼんやりと見ていたのでしょうね。
どちらかというとジャン=ポール・ベルモンドの方が好みでした。
おそらくゴダール映画での印象が強かったのでしょう。
けれども、老いてなお、今その含蓄ある姿をさらす
トランティニャンには
崇高なる俳優としての尊厳を感じずにはいられません。
ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』や『ハッピーエンド』で見せた
あの円熟の演技には心打つ、熱いものを感じました。
やはり、俳優としての深みは掛け値なく素晴らしいものです。

ここにはすでに盟友フランシス・レイ、ピエールもいません。
ストーリーとして、アヌーク・エーメと
トランティニャンがいるだけで成立するという
映画的な奇跡もあるでしょう。
けれどもこの二人がこうして映画であれ再会する
この奇跡のような瞬間に、内容はともかく
ちょっとした感動に今から心震えるような思いがしています。
正直に告白すれば53年前の『男と女』よりも
こちらの方を観たいという気持ちの方が強いのです。

ちなみにアヌーク・エーメとピエール・バルー
この映画が縁で実生活でも結ばれたのでした。
でも短い期間した関係は続かず、
それでも以後も友達としての関係が継続されたらしいのです。

「彼女は独占欲が強かった」などとある時の回想を
聞いたことがありますが
『男と女』ではさってゆこうとするのはアヌークの方でしたが・・・